精神科実習が怖いあなたへ【現役看護師が教える、安心できる7つのこと】


精神科実習が怖いと感じるのは、患者さんのことを知らないからです。実際に会話し、知っていくことで不安はなくなります。

私は今、精神科病棟で働く看護師です。毎年、実習生を受け入れる側にいます。

でも学生時代、精神科実習に行く前は不安でした。

山の中にある病院。独特のにおい。鍵を渡されたときの戸惑い。「刑務所みたいだ」と思った第一印象。

あの頃の自分と、今の自分。両方の立場から、感じていることをありのままに話します。

精神科実習が怖いのは、普通のことです

「精神科実習、不安だな。精神疾患を持つ人とどんな話をすればいいんだろう?ちょっと怖いな」と思っている人へ。

その感覚は、おかしくありません。むしろ正常です。

怖いと感じる理由は、だいたいこのあたりだと思います。

  • 患者さんに何かされないか
  • 何を話せばいいかわからない
  • 変なことを言って刺激してしまわないか
  • 関係が築けなかったらどうしよう
  • 看護記録に何を書けばいいかわからない

全部、わかります。私も同じでした。

なぜ「怖い」「不安だ」と感じるのか?その原因は、相手のことをよく知らないからです。あなたがいま親しくしている友達も、初めて会ったときはどんな人かわからず、「怖い」「不安だ」と思ったことはありませんか?

精神科の患者さんと接することを不安に思うことも、構造は同じです。普段あまり接することがないからこそ、そう思ってしまう部分が大きいと思います。

私が学生時代に見た精神科のリアル

準看護師学校時代、初めて精神科実習に行きました。

その病院は、山の中にありました。施設自体が古く、廊下は薄暗い。においがありました。排泄物のにおいをベースにした、何とも言えない空気が充満していた。介護士時代に認知症の方の世話をしていたので排泄ケアへの抵抗はありませんでしたが、それとも違う、言葉にしがたい雰囲気がありました。

病棟に入ると、さまざまな患者さんがいました。

10年以上入浴していないという、髪の毛もひげも伸び放題の男性。においもすごい。それなのに、スタッフは誰も入浴させようとしていない。院長も、その方と仲よさそうに話していた。介護施設にはいなかった存在に、当時の私は圧倒されました。「こんな世界があるんだ」と。

靴音をキュッキュッと鳴らしながら、ひょこひょこと歩く男性。青白い顔で、こけそうなのに不思議と転ばない。ぶつぶつ独り言を言いながら、薄笑いを浮かべている。今なら、その歩き方は向精神薬の副作用かなと思いますが、当時はわかりませんでした。統合失調症の患者さんでしたが、話をしてみると内面はとても豊かな人でした。

布製のヘルメットのようなものをかぶり、上着とズボンがつながった服を着て、にこにこしながら歩く高齢の女性。看護師さんから「危ないよ!」とよく注意されている。今なら、頭部を転倒の衝撃から守る保護帽と、おむつを外すのを防ぐためのつなぎ服だったとわかります。でも、その当時はそんなことは知りませんでした。

車いすに座っている認知症の方に、見慣れないベルトがついていました。立ち上がって転倒するのを防ぐための安全ベルトです。介護施設にいたころはそんなものを見たことがなかった。ほかの方法で転倒防止に努めていたので、「拘束じゃないのか」と、違和感を覚えました。

食堂には古い掃除機が置いてありました。「これは何のために置いてあるんですか?」と聞くと、「食事中に窒息したときに吸引するため」と言われた。介護施設ではそんな話は聞いたことがありません。「吸引器を使わないんだろうか?」と、びっくりしました。

実習が始まるにあたって、まず鍵を渡されました。病棟の移動には鍵が必要です。他の科では鍵など渡されたことはない。「なくしたらどうしよう」「興奮した患者さんから奪われたりしないか」頭の中で、いろんな不安がぐるぐる回っていました。

看護師さんも、なんだか怖い気がします。患者さんへの関わり方が威圧的に見え、管理的に感じました。言い方は悪いですが、正直に言います。まるで「刑務所みたいだ」と思ったのを、今でも覚えています。

今なら、看護師さんの態度は、患者さんの病状に応じて、きっぱりと、毅然とした態度をとらなくてはならないという、看護上の必要性からきていたのだと理解できます。

今の私だから言えますが、看護師の対応が一見厳しくても、その時の患者さんには必要な対応だったりします。現場では患者さんの利益になることを一番に考えて接しているので、一段深いところもぜひ見ていってほしいと思います。

とにかく最初は、驚きと不安の連続でした。

怖くなくなった瞬間の話

担当についたのは、統合失調症の中年男性でした。長く入院されている方です。

最初は、会話が成立しませんでした。話し方が独特で、聞き取りにくい。介護士時代に培った傾聴力があると思っていましたが、それだけでは足りなかった。統合失調症の症状——幻聴、幻覚、妄想——を知らなかったからです。

会話の途中に、私には見えない誰かとの会話が挟まれる。あるはずのものが見えている節がある。話の内容が現実から離れている。どう関わればいいか、最初は途方に暮れました。

でも、毎日話しているうちに、少しずつ耳が慣れてきました。

ある日、好きなアイドルの話をしてくれました。「好きな歌手いる?」と聞かれて、私も答えた。そこから、普通に会話が続いた。

なんだ、慣れたら普通の会話ができるじゃないか。

怖さは、距離でした。知らないから怖かった。近づいたら、ただの人でした。

実習前に知っておくと安心できる7つのこと

受け入れ側の看護師として、毎年実習生を見ています。学生さんが抱えている不安は、だいたい同じです。だから、先に答えを書いておきます。

① 危険な患者さんを担当させることはありません

これが一番大事なことです。急性期で興奮状態にある患者さん、暴力リスクが高い患者さんを、学生さんに担当してもらうことはありません。担当患者さんのマッチングは、実習担当の看護師が責任を持って考えています。安全は、受け入れ側が守ります。トラブル防止のため、性別上の配慮もしています。例えば、女性の学生さんに男性患者をつけるということは、基本的にしません。男性学生さんでも同じことです。それでも、もし何か嫌なことがあれば、実習担当看護師でも、先生でもいいので言ってください。すぐに対応するようにしています。

② 会話が続かなくても大丈夫です

「何を話せばいいですか」と聞いてくる学生さんは、毎年います。天気でも、テレビでも、食事でも、なんでもいい。むしろ、患者さんを理解しようとする姿勢の方が大切です。完璧な会話なんて、私たち看護師だってできません。患者さんに一度、どんな看護師が安心できるかと聞いたことがあります。その返事は「世間話ができる人が安心できるな」というものでした。世間話の中から、見えてくるものはたくさんあります。実は自分が病気だと思ってなかったり、妄想の出来事を話していたりと、客観的情報を収集できる機会でもあります。このような情報を集めることで、看護過程にも厚みが出てくると思います。

③ 沈黙は失敗ではありません

精神科では、一緒にいるだけで関係が築けることがあります。何か話さなきゃと焦らなくていい。黙って隣に座っているだけでも、それは立派な関わりです。あなたの存在自体が、患者さんにとって意味あるものなのです。私も学生の時は「自分は何の役にも立っていない。ここにいていいのだろうか」と毎日自問自答していました。でも、そこにいるだけでいいのです。患者さんと真摯に向き合おうとしているあなたの姿勢は、患者さんにとって意味があるものなのです。たとえ話すことがなくても、あなたの存在自体が治療環境の一つになっていることもあります。これも精神科実習で学んでほしいことの一つです。

④ 患者さんも、実は緊張しています

学生さんだけが緊張しているわけではありません。学生さんが来るとなった時、実習担当看護師は、目星をつけた患者さんに「学生さんが来るから、つかせてもらえませんか?」とお願いしに行きます。実はそれだけで不安になってしまう患者さんもいるので、慎重に選ばせてもらっています。患者さんも緊張して、「何を話そうか」、と思っていたりします。もしかすると、途中で「学生さんが来るのがつらい」という状況になってしまうことがあるかもしれませんが、それは時々あることです。あなたが悪いのではなく、タイミングが悪かった、ということだと思います。そのような場合は、実習担当看護師が代わりの案を考えてくれるので、心配はいりません。

⑤ 精神疾患があっても、普通に話せる方がほとんどです

ドラマやニュースのイメージと、現実は違います。統合失調症の方でも、野球の話、アイドルの話、家族の話を普通にします。私が学生時代に担当した男性も、好きなアイドルの話で盛り上がりました。事前学習をしていると、「統合失調症の人はこんな症状があって、こういう対応が必要だ…」と構えてしまいますが、まずは目の前の患者さんをみてください。「統合失調症のAさん」ではなく、「Aさんという人が統合失調症という病気の状態にあるのだ」と考えて接する方が、より自然ではないでしょうか。数ある病院の中、数多くの患者さんからあなたが受け持つことになったのです。もしかしたら何か意味があるのかもしれない、貴重な縁です。あまり構えずに、普通に接してみればいいと思います。

⑥ わからないことや不安なことは、看護師に聞いてください

「変なことを言ったらどうしよう」と思っている学生さんへ。実習中に迷ったら、受け持ち看護師に相談してください。失敗しない学生より、相談してくれる学生の方が、受け入れ側としてはずっと安心します。一人で抱え込まないでください。受け持ち看護師以外にも、実習担当看護師、先生などに聞いてみればいいです。「こんなこと聞いていいのかな?」と思うようなことでも、現場の看護師からすれば、学生さんの視点は逆に勉強になったりします。気づいたこと、疑問に思ったことをぜひ聞いてみてください。中には聞きにくい看護師もいるかもしれませんが、あなたは学びに来ているので、基本的に何でも聞いていいと思います。その看護師も、以前はあなたと同じように学生だったのだから。もし、嫌な思いをしたときは、あなたが看護師になって学生さんを受け入れる立場になった時、同じような態度をとらないようにしてあげてください。私も過去に同じような経験があるので、できるだけ学生さんの力になれるよう気を付けています。

⑦ 実習最終日には、違う景色が見えているはず

初日は不安で怖かった、帰りたかった。でも最終日には、名前を覚えてくれた。会話ができていた。患者さんが待っていてくれた。そういう変化が、精神科実習では起きます。実習初日は見えていなくても、最終日には見える景色は違ってきます。「案ずるより産むがやすし」です。あなたも不安ですが、患者さんも「ちゃんと話ができるかな」と不安ですし、現場の看護師も「いい実習をしてもらえるかな?」と不安です。でも、あなたが誠実に実習に臨むことで、不安は不安でなくなっていくと思います。そして、なにかを得られると思います。精神科の実習はコミュニケーションが主です。では、他科でコミュニケーションは重要ではないでしょうか?そんなことはありませんよね。入院されている患者さんは、何らかの健康的な不安を抱え、大なり小なり精神的に不安定な状態にあると思います。それが精神的な疾患かと言えば、それはまた違いますが、精神状態を観察しアセスメントする能力はどの科でも必要です。身体と違って精神の問題は見えにくいし、明確な答えがあるわけでもありません。でも一番大切なことでもあります。短い実習期間ですが、患者さんの「こころ」に思いを寄せるということを精神科で学んでくれたらと思います。内科、外科…どんな科でも活きるはずです。

受け入れ側の看護師が、実は見ていること

正直に言います。実習に来る学生さんに、完璧な対応を期待している看護師はいません。

私たちが見ているのは、知識の量ではありません。患者さんに誠実に向き合おうとしているか。それだけです。

うまく話せなくていい。沈黙しても構わない。緊張していても構わない。緊張している学生さんは、毎年います。

ひとつだけ、受け入れ側として気づいたことを話します。

看護師には話しにくいことを、学生さんには話してくれる患者さんがいます。

以前、こんなことがありました。退院を控えた患者さんで、服薬も問題なく、私たちスタッフは「退院後も継続して服薬できるだろう」と思っていました。ところが実習生との会話の中で、その方がこう話していたことがわかりました。「退院したら、もう薬は必要ないと思う。病気ではないから。」

私たちが把握できていなかった本音を、学生さんが引き出してくれたのです。

看護師だから警戒している患者さんもいます。学生さんだから話せることがある。短い期間でも、あなたにしかできない関わりがあります。

就職先はもう決まっていて、オペ看を目指しているという学生さんもいました。精神科を希望する学生さんは、ほとんどいません。私も最初は内科志望でした。精神科なんて、考えもしなかった。でも今、私は精神科にいます。進路は変わります。けれど、どの科で学んだことも、どこかで必ず生きてくると思っています。この実習も、いつか思い出してくれたら。

毎年、実習生を迎えます

毎年、実習生を迎えます。

緊張した顔で来て、最終日に「来てよかったです」と言って帰っていく学生さんを、何人も見てきました。怖いまま終わった人を、私はまだ見たことがありません。

実習初日、怖くて当然です。

ただ、7日間を終えたとき、初日の自分を思い出してみてください。きっと少し、景色が変わっているはずです。

あなたが誠実に向き合おうとしている。それだけで、十分です。

まとめ

  • 精神科実習が怖いのは、知らないからです
  • 危険な患者さんを学生に担当させることはありません
  • 会話が続かなくても、沈黙しても、大丈夫です
  • 患者さんも緊張しています。お互い様です
  • 7日後には、景色が変わっています

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