精神科実習の事前学習、これで安心【現役精神科看護師が教える6つのポイント】
精神科実習の事前学習、教科書の項目を書き写すだけで終わっていませんか。
実習前に全部を覚えていく必要はありません。ただ、どこを見ればいいかが分かっていると、実習中の戸惑いはかなり減ります。この記事では、実際に実習生を受け入れている精神科看護師の立場から、事前に知っておくと楽になる6つのポイントをまとめました。
1. 入院形態
精神科には、任意入院、医療保護入院、措置入院などの入院形態があります。国家試験に出題はされますが、実習中はざっと知っておくだけで大丈夫です。イメージを持っておけば、国試のときに「そういえばこんなだったかな…」と思い出すフックになります。
大事なのは、受け持ち患者さんの入院形態を知っておくことです。医療保護入院とは、言い方は悪いですが一種の「強制入院」です。そうしなければならないほど精神状態が悪かったということになります。たとえばあなたの受け持ち患者さんが医療保護入院から任意入院に変わったなら、それは精神状態が良くなってきたサインとして読み取れます。
なお、措置入院について実習中に細かく問われることはほとんどありません。カンファレンスで話題に出たときに、指導者から確認される程度です。
2. 統合失調症とうつ病
統合失調症
学生さんが受け持つ患者さんは、ある程度回復している人が多いはずです。ただ、何をもって回復とするかは人によって違います。妄想や幻聴が完全になくなることは、実際にはあまりありません。落ち着いているように見えても、その人の中では続いていることがあります。
関わるときは、「昨日より妄想の内容がひどくなっていないか」を見てみてください。妄想には、その人が言葉にできない困りごとや願いが隠れていることがあります。「この人の心の奥底には、どんな思いがあるんだろう」と考えながら聞いてみると、見え方が変わってきます。
例えば、「お金がない」という貧困妄想の場合。「お金がない→この先どうにもならない→自分は何もできない→周囲に迷惑をかける→生きていても仕方ない」というふうに、お金がないことを怖がっているよりも、「だれにも支えてもらえない自分」に対して恐怖を覚えている場合があります。
そのような場合、心の底にあるものを見ず、表面的に「お金はあるから大丈夫ですよ」と妄想の内容だけを訂正しようとしても、「いや、それでも…」と、別の不安が出てきます。だから、患者さんの言葉の裏を見ようとするのが大事なのです。
ただし、深く聞きすぎるのは危険です。妄想がより強化されたり、患者さんの怖い気持ちが強くなったりすることがあります。ほどほどのところで切り上げる、話題を変える。この見極めは難しいですが、無理に踏み込まないでください。
うつ病
不安が強くなる、食べられない、眠れない、集中力や決断力が落ちる。よく見られるのはこのあたりです。
驚くのは、元気そうに見える患者さんでも、話していると端々に不安がにじむことです。「え、この人こんなに不安を抱えてたんだ」と、実習で初めて気づく学生さんは多いです。
もう一つ知っておいてほしいのが希死念慮です。少し良くなってきた回復期に出やすいと言われています。「消えたい」「死にたくなることがある」と言われたら、まずその気持ちを受け止めてください。「そういう気持ちになることがあるんですね」と返すだけで構いません。そのうえで、必ず看護師に報告してください。学生さんが一人で抱える必要はありません。
3. 薬の副作用
精神科では薬物療法が治療の柱のひとつです。副作用は教科書で一通り覚えると思いますが、大事なのは「誰にどう出やすいか」を紐づけて見ることです。
服薬歴が長い患者さんほど、小刻みにちょこちょこ歩いていたり、手に振戦が見られたりする印象があります。今の主流は非定型抗精神病薬ですが、それ以前から病歴が長い人は、定型抗精神病薬を長く飲んできた影響が出ていることがあります。あなたの受け持ち患者さんが何をどれくらいの期間飲んでいるのかを見たうえで、「この人にはこの症状が出ていないか」と探すと、ただの暗記が観察に変わります。
便秘
学生さんがバイタルを測りに行くと、排泄状況を聞くことになると思います。そのときに便秘の訴えを聞くことは多いはずです。原因のひとつとして、抗精神病薬の抗コリン作用が考えられます。加えて、入院中は日中の活動が不足したり、水分や食事があまり摂れなかったりすることも重なります。マグミットなどの下剤を飲んでいる人も非常に多いので、下剤の有無も見ておくといいです。
アカシジア・ジスキネジア
手足がむずむずするような感じがして、じっとしていられない状態がアカシジアです。ジスキネジアは、口とその周囲がもぐもぐと常に動くもので、本人の意思とは関係なく動きます。落ち着きがないように見えても、副作用のサインであることがあります。
その他の抗コリン作用
口渇があります。喉が渇いて水を大量に飲むと、水中毒につながる危険があります。尿閉や排尿困難が起きることもあります。
抗うつ薬
効果が出るまでに時間がかかるものがあります。効果より先に嘔気や倦怠感、眠気といった副作用のほうが目立つこともあるので、そういうときはしっかりした説明が必要です。また、気分安定薬などで気分が上がりすぎることもあるので、気分の上下には注意して見ています。
睡眠薬
最後に飲んだ時間と、実際の睡眠時間を見ていく必要があります。一番怖いのは転倒です。
身体疾患を持っている患者さん
高齢の患者さんも多く、糖尿病など他の疾患を併せ持っていることも多いです。クエチアピンなど一部の抗精神病薬は、糖尿病のある方には使えません(禁忌)。学生さんが判断する場面ではありませんが、頭の片隅に置いておくと、既往歴を見る目が変わります。
4. バイタルサインと身体の観察
実習では毎朝、体温・脈拍・血圧・酸素飽和度を測ることになります。大事なのは数値そのものより、「この数値が何を意味するか」です。ここが分かっていると、日々の記録も、病態関連図も、指導者への報告も書きやすくなります。
以下は、気づいたことと、そこから考えられるものの対応表です。実習に持っていってください。
| 気づいたこと | 考えられるもの | 見ておきたいこと |
|---|---|---|
| 体温:高熱 | 悪性症候群の可能性(頻度は高くありませんが要注意) | 熱だけでなく、筋のこわばり・発汗・脈の速さも合わせて見る |
| 脈拍:頻脈 | 悪性症候群の自律神経症状のひとつ | 高熱や筋のこわばりと一緒に出ている場合は特に注意 |
| 血圧:立ちくらみ・ふらつき | 起立性低血圧の可能性 | 薬を始めたて、増量したての時期は特に注意。転倒に注意 |
| 酸素飽和度:低下、食事中にむせる | 誤嚥性肺炎の可能性 | 抗精神病薬の鎮静作用や抗コリン作用で、嚥下や咳の反射が落ちることがある |
| 腹部:張っている、腸の音が金属音のように高く聞こえる | イレウス(腸閉塞)の可能性 | 嘔気、嘔吐、食欲低下の有無もあわせて見る |
| 便秘の訴え | 抗コリン作用の可能性 | 下剤の使用の有無も確認しておく |
| 手足のむずむず、じっとしていられない | アカシジアの可能性 | 落ち着きのなさに見えることがある |
| 口や口の周りが勝手に動く | ジスキネジアの可能性 | 本人の意思とは関係なく起こる |
| 口の渇き、水をたくさん飲む | 抗コリン作用、水中毒のリスク | 水分の摂取量も合わせて見る |
便秘とイレウスは地続きです。便秘が長引いて下剤を使い続けている患者さんは、イレウスのリスクが高くなります。日々の排便状況を見ておくことが、急変の予防につながります。
数値に異常が出たとき、「なぜこの数値になっているのか」を考える材料があるだけで、報告の質が変わります。「熱が38度でした」で終わるのか、「熱が38度で、筋のこわばりもありました」と言えるのかで、指導者に伝わるものが違ってきます。
身体面以外の観察ポイントについては、こちらの記事にまとめています。あわせて読んでみてください。
→精神看護学実習で観察すべき7つのポイント【現役看護師が教える、教科書にはない視点】
5. コミュニケーション
精神科実習で一番聞かれるのが、これです。「患者さんにこう言われたんですけど、どう返せばいいですか」。統合失調症の患者さんが妄想的な発言をしたとき。うつ病の患者さんがあまり話してくれないとき。患者さんが泣き出してしまったとき。学生さんは、その場でどうしていいか分からなくなります。
教科書にも事例は載っています。ただ、疾患によって関わり方のポイントがあるのも事実です。まっさらな状態でコミュニケーションを取ろうとするより、疾患の特徴と関わりのポイントをある程度知っておいたほうが、現場での戸惑いは少なくなります。
そして、ここが一番伝えたいことです。
事前学習は、正解を覚えるためではありません。現場で困ったときに、質問できるようにしておくためのものです。
指導者に「どうすればいいですか」とゼロから聞かれるのと、「教科書ではこのように習ったのですが、実際に関わってみると違うような気がしました。どのように関わればいいでしょうか」と聞かれるのとでは、受ける印象がまったく違います。
後者を言われたとき、私は「この学生さん、よく勉強してきているな」とうれしくなります。分からないことを聞くのは、恥ずかしいことではありません。ただ、勉強してきたことと現場のズレに気づいて聞ける人は、確実に伸びます。
事前学習は、そのための材料集めだと思ってください。
実際の関わりでつまずきやすいポイントについては、こちらでまとめています。
→精神看護学実習でやりがちな5つの失敗【受け入れ側の看護師の本音】
6. プロセスレコード
精神科実習では、患者さんとの関わりを振り返る「プロセスレコード」に取り組みます。「再構成」と呼ばれることもあります。
事前に身構える必要はありませんが、実際に書き始めてから、考察がなかなか進まずに悩む学生さんは多いです。その理由と書き方のコツについては、別の記事で詳しく解説しています。実習が始まってから読んでも間に合いますので、そのときに参考にしてください。
→プロセスレコードの考察が書けない理由【思い出せないのは当たり前です】
おわりに
事前学習の内容をすべて覚えていくことはできないし、その必要もありません。事前学習をするなかで、いくつかの項目は頭に残っていると思います。実習中に「あれ、これどこかで聞いたことがあるな」「これ、事前学習でやったんじゃなかったっけ?」など思えたら、それで十分だと思います。
ここまで読んで、それでもまだ不安が残る人もいると思います。精神科実習が怖いと感じている人に向けて、別の記事を書いています。よかったら読んでみてください。
→精神科実習が怖いあなたへ【現役看護師が教える、安心できる7つのこと】
実習、頑張ってきてください。