プロセスレコードの考察が書けない理由【思い出せないのは当たり前です】
プロセスレコードの考察を書くのに苦労するのは、その時の自分の表情や声のトーンを思い出せないからではないでしょうか。
患者さんが何を言ったかは覚えているし、自分が何と返したかも覚えている。でもそのとき、自分がどんな顔をして、どんな声で言ったのかは思い出せない。だから「なぜ患者さんがあの反応をしたのか」がわからないまま、考察の欄が埋まらない。
私は今、精神科病棟で働く看護師です。毎年、実習生を受け入れる側にいます。この記事では、准看護師学校時代に私が書いた、コミュニケーションテクニックがうまくいかなかった時のプロセスレコードを公開しながら、考察をどう書けばいいのかをお伝えします。
読み終えたときには、思い出せない部分をどう扱えばいいのか、考察の欄に何を書けばいいのかが決まっているはずです。
会話を一言一句思い出せなくても大丈夫です
先に、いちばん大事なことを書いておきます。
患者さんとの会話を一言一句思い出すのは、無理です。
私は学生のとき、患者さんと話し終えてナースステーションの学生スペースに戻ると、すぐにメモへ書き起こしていました。それでも、正確には思い出せませんでした。
今の職場の実習指導看護師も、同じことを言います。全部を覚えておくのは無理だ、と。
看護学校の実習要項にも、正確に記述することが大切だと書かれた上で、選択的な聴き方をしたり忘れてしまったりするため、この方法には限界があると明記されているものがあります。教育する側も、記録が不完全になることを前提にしているのです。
思い出せない部分を、どこまで書いていいのか
とはいえ、ここで新しい疑問が出てくると思います。
思い出せなくていいのなら、その部分はどう埋めればいいのか。少し補って自然な形にしてもいいのか。それとも、空白のままにするしかないのか。
私が実習で持っていた基準は、次のとおりです。
言葉を足さない
患者さんが「うん」としか言っていないのに、「うん、そうだね」と書いてはいけません。
会話として自然な形にしたくなりますが、「そうだね」は相手が言っていない言葉です。
順番を入れ替えない
読みやすくするために会話の順序を並べ替えるのも、避けてください。
コミュニケーションには流れがあります。何を言われた後にその言葉が出たのか、という順序そのものが情報です。順番を変えると、その流れが崩れます。読みやすくなった記録は、もう別の場面になっています。
言えなかった一言を、言ったことにしない
たとえば、患者さんが「もう死にたい」と言ったとき、実際には何も返せずに黙ってしまったとします。それを「つらかったんですね」と返したことにして書く。あとから考えた理想の返事を、その場で言えたことにしてしまう。
これはやってはいけません。
そして、黙ってしまったのなら、黙ってしまったと書いてください。言葉が出てこなかったこと自体が、振り返る価値のある情報です。
表情や仕草は、印象に残ったものだけ
すべてを再現しようとすると、記憶があいまいなまま書き足すことになります。印象に残ったものだけでかまいません。
思い出せなかった部分は、思い出せなかったまま残す。足さない、動かさない、思い出せた分だけ書く。これが記録の部分の基準です。
欄によって、書き方の基準は変わります
ここを分けて考えると、手が止まりにくくなります。
患者さんの言動を書く欄は、事実の記録です。だから足したり動かしたりしてはいけません。他人の言葉だからです。
一方、自分が感じたこと・考えたことの欄は、振り返りの場です。会話の最中に考えていたことを正確に思い出すのは、患者さんの言葉を思い出すよりも難しい。ここは、あとから振り返って気づいたことを書く欄です。書きながら「あのとき自分は焦っていたのかもしれない」と気づいたなら、それを書いてください。
プロセスレコードを書くときに詰まってしまう理由の一つは、すべての欄を同じ基準で書こうとしてしまうことだと思います。
実例:患者さんに「嘘つきです」と言われた記録
ここから、私自身の記録の話をします。
准看護師学校時代の精神科実習で、認知症の高齢女性を担当していました。
実習の初日ではありません。何日か経って、関係ができて、距離が近くなってきた頃のことです。
その方が、こう言いました。
「私は不細工ですから。あなたとは話しません」
私は、こう返しました。
「そんなことありませんよ」
すると、その方は大きな声で言いました。
「あなたは嘘つきです!」
そして、こう続けました。
「もう来ないでください」
そのとき私が感じたのは、まず焦りでした。どうしよう、怒らせてしまった、と。少し遅れて、申し訳なさが来ました。この人が期待していた返事ができなかった、と思ったのです。
そのあと、もう一度その患者さんと話そうと試みましたが、「話しません」と拒否されてしまいました。そのため、残りの時間はほかの患者さんとコミュニケーションをとったり、書き物をして過ごさなくてはならなくなりました。
実習を続けられるか不安になった、その日の夜
実習が終わって病棟を出たあとも、頭から離れないものがありました。
「もう来ないでください」と言われたときの、きつい表情です。何度も再生されました。
そして、なぜこうなったのかがわかりませんでした。悪いことを言ったつもりはありません。相手を励ますつもりで言った言葉が、どうして嘘つきという言葉になって返ってきたのか。理由がつかめないまま、頭の中にはその時の映像だけが残りました。
その夜は、このまま担当を外されるのではないかと思い悩みました。実習は続くのに、担当患者さんがいなくなる。そうなったら実習はどうなるのか。一晩、そのことを考えていました。
このメンタルのまま実習を続けられるのだろうかとも思いました。
翌朝、病棟へ向かう足は重かったです。
でも行ってみると、その方は何もなかったように話をしてくれました。前の日のことは、忘れておられたようでした。
安堵しましたが、同時に、悶々としたものは消えませんでした。相手は忘れている。覚えているのは自分だけです。何が起きたのかわからないまま、あの時の表情だけが残っていました。
指導者は答えではなく、質問を返してきた
この場面を、私はプロセスレコードに書きました。
そして指導者に見てもらったとき、言われたのはこういうことでした。
その時のあなたの表情や声のトーンはどうだったか。自分の言動を振り返るように、と。
答えは教えてもらえませんでした。患者さんがなぜ怒ったのかも、説明されませんでした。返ってきたのは、私自身についての問いだけでした。
このとき私は、患者さんの側しか見ていませんでした。あの表情がなぜ生まれたのかを、患者さんの中に探していた。だから何も見つからなかったのだと思います。
指導者は、その向きを自分の側へ折り返させました。
原因は言葉ではなく、声のトーンにあった
言われたとおりに、自分の表情と声を思い出そうとしました。
正直に言うと、はっきりとは思い出せませんでした。だからここに書くことは、すべて推測です。
関係ができて、距離が近くなっていました。馴れ馴れしくなっていたのかもしれません。
「そんなことありませんよ〜」と、笑いながら軽いノリで言った気がします。何日も話してきて、打ち解けたつもりでいたからです。
でも、あの方は深刻なトーンで言っていました。自分は不細工だから話さない、という言葉は、その方にとって軽い話ではなかったはずです。
深刻に言われたことに、軽く返してしまった。
相手の思いに寄り添えていなかったのかもしれない。そう振り返った記憶があります。
私が言った言葉そのものは、間違っていなかったと思います。「そんなことありませんよ」は、日常会話なら自然な返事です。間違っていたのは、言葉ではなくトーンのほうだったのではないか。
会話を書き起こすとき、私たちは言葉を残します。声の調子までは残りません。ところが相手を怒らせたのは、その残らなかったほうでした。だから記録を読み返しても、原因が見つからなかったのです。
考察が書けないときは、自分の行動から逆算する
ここからは、書き方の話に戻ります。
考察で手が止まるのは、たいてい「自分が感じたこと・考えたこと」の欄です。会話の最中に自分が何を考えていたかは、あとから思い出しにくいからです。
そういうときは、逆からたどってください。
自分が次に何をしたかは、覚えているはずです。
たとえば「何も言わず、ただAさんの話を聞いていた」という自分の行動が残っているなら、その直前には「どうしよう」があったはずです。話しかけるのをやめて距離を取ったなら、その前には迷いか、ためらいがあったはずです。
感情から行動へ、ではなく、行動から感情へたどる。これはあとから振り返って初めてできることですが、記憶の正確さにこだわるより、こちらのほうが早く進みます。
考察で見るべきなのは、会話の再現度ではありません。自分の感情がどのように動いたのか、そちらのほうが大事だと思っています。
上手く書こうとしなくていい
プロセスレコードで多くの人が詰まる理由は、上手く書こうとするからだと思います。
ここで言う「上手く書く」は、二つの意味が混ざっています。読みやすく整理して書くことと、うまく対応できた自分として書くことです。
前者は必要です。指導者が読むものですから、順序が追える形で書いてください。
問題は後者のほうです。あのときこう返せばよかった、という考えが浮かぶと、記録のほうを少しずつ立派にしたくなります。でも実際に起きたこととずれていくほど、振り返る材料はなくなっていきます。
うまくいかなかった場面ほど、あとから読み返して見えてくるものがあります。私のあの記録も、書いた時点では失敗の記録でしかありませんでした。
あの頃の私は、コミュニケーション技術としては未熟でした。それでも、自分なりに誠実に向き合っていたと思います。でも、それでいいのです。
プロセスレコードを書くと、相手の言葉の受け取り方が変わる
最後に、私なりの答えを書きます。
あの頃の私は、相手の言葉の裏にあるものを見ようとしていませんでした。
「私は不細工ですから」という言葉を、そのまま受け取って、そのまま打ち消そうとした。その言葉がどこから出てきたのかを考えていませんでした。
言葉が出てくるためには、思いや考えが元にあるはずです。
自分の言葉の裏を掘らされた人間は、他人の言葉の裏も掘るようになります。プロセスレコードで自分の内側を掘る作業は、そのための練習だったのだと思います。
今なら、同じ場面でこう考えます。この人はなぜ、自分のことを不細工だと言うのだろう。そこにどんな思いがあるのだろう。そのうえで、「そう思われるんですね」や「どうしてそう思われるんですか」と返すと思います。
当時と違うのは、返事の言葉そのものではありません。返す前に、相手の言葉の出どころを考えるようになったことです。
この記事のはじめに、自分の表情や声のトーンは思い出せないと書きました。今でも思い出せません。それでも、思い出せないものについて考え続けた時間が、その後の関わり方を変えていきました。
考察の欄が埋まらなくて困っているなら、それは、あなたがその場面を真剣に考えている証拠です。書けないまま悩んだ時間も、ちゃんと力になります。
まとめ
最後に、実習に持っていける形でまとめます。
記録を書くときの4つのルール
- 患者さんが言っていない言葉は足さない(「うん」を「うん、そうだね」にしない)
- 会話の順番は入れ替えない。読みやすさより、実際の流れを優先する
- 言えなかった一言を、言ったことにしない。黙ってしまったなら「黙ってしまった」と書く
- 表情や仕草は、印象に残ったものだけでいい
思い出せなかった部分は、思い出せなかったまま残してください。一言一句の再現は、指導者も無理だと知っています。
考察が書けないときの3ステップ
- まず、自分が次に何をしたかを思い出す(黙った、話題を変えた、その場を離れた)
- その行動をとる直前、自分は何を感じていたかを考える(焦り、迷い、申し訳なさ)
- その感情が、どの言葉やどの表情をきっかけに動いたのかをたどる
「その時どう思ったか」を直接思い出そうとすると詰まります。行動のほうは覚えているので、そこから逆にたどってください。
それでも原因がわからないときに見るところ
自分の声のトーン、表情、話す速さです。
言葉は書き起こせますが、どんな調子で言ったかは記録に残りません。相手が反応したのは、その残らなかったほうかもしれません。深刻な話に軽く返していなかったか、急かすような早口になっていなかったか、そこを思い出してみてください。
覚えておいてほしいこと
出てきた言葉や表情には、その元になった思いや考えがあります。
自分の言動の裏側を掘る作業に慣れると、患者さんの言葉の裏側も見えるようになります。プロセスレコードは、そのための練習です。
うまく対応できた記録である必要はありません。うまくいかなかった場面ほど、あとから読み返したときに見えてくるものがあります。
なお、プロセスレコードは実習が始まってから取り組めば間に合います。実習前の準備として何を見ておけばいいのかは、別の記事にまとめました。
→精神科実習の事前学習、これで安心【現役精神科看護師が教える6つのポイント】